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2025年10月
  • なぜマイコプラズマの咳は薬が効きにくいのか

    医療

    マイコプラズマ感染症と診断され、抗生物質を処方された。これで、つらい咳から解放される、と期待したのも束の間、薬を飲んでも、咳がなかなか治まらない。そんな経験から、「マイコプラズマの薬は効かないのでは?」と、不安に思う方もいるかもしれません。この現象には、マイコプラズマという菌の、特殊な構造と、病気が引き起こす気道の状態が、深く関係しています。まず、マイコプラズマには、一般的な細菌が持っている「細胞壁」という、固い殻のような構造がありません。多くの抗生物質(ペニシリン系やセフェム系など)は、この細胞壁の合成を阻害することで、細菌を殺す働きをします。そのため、もともと細胞壁を持たないマイコプラズマには、これらの種類の抗生物質は、全く効果がないのです。これが、風邪や気管支炎で一般的に処方される抗生物質が、マイコプラズマには効かない、という理由です。マイコプラズマに有効なのは、「マクロライド系」や「テトラサイクリン系」、「ニューキノロン系」といった、細菌のタンパク質の合成を阻害するなど、細胞壁とは異なるメカニズムで作用する、特殊な抗生物質です。したがって、適切な種類の抗生物質が選択されれば、体内の菌を殺菌する効果は、きちんと発揮されます。では、なぜ、その有効な薬を飲んでも、咳は長引いてしまうのでしょうか。それは、抗生物質が、あくまで「菌を殺す」ための薬であり、「菌によって傷つけられた気道の粘膜を修復する」ための薬ではないからです。マイコプラズマは、気道の粘膜に深くダメージを与え、気道を非常に過敏な状態にしてしまいます。抗生物質によって、原因である菌がいなくなった後も、この傷ついた粘膜が、完全に修復されるまでには、数週間という長い時間が必要なのです。その間、気道は、わずかな刺激にも反応して、咳を引き起こし続けます。つまり、「薬が効いていない」のではなく、「菌は死んだけれど、咳だけが後遺症のように残っている」というのが、正しい理解です。この、しつこい咳に対しては、抗生物質とは別に、気道の炎症を抑える薬や、気管支を広げる薬、あるいは咳中枢を抑える薬などが、対症療法として、併用されることもあります。